膵β細胞の生物学・病態学|糖尿病 食事療法 治療 京大病院 栄養内科





研究概要

■膵β細胞における代謝-分泌連関に関する研究
膵β細胞は、細胞内グルコース代謝を介してインスリン分泌を制御しているユニークな細胞です(図1)。 私たちは、このβ細胞における代謝-分泌連関に興味をもち膵β細胞のインスリン分泌機構や様々な条件できたされるインスリン分泌障害の機序について研究をすすめてきました。

1. 糖尿病をきたす薬剤や、生体内代謝産物の暴露によって生じるインスリン分泌障害の機序を解明し、様々なミトコンドリアATP産生因子が、代謝-分泌連関の障害に関係していることを明らかにしてきました。
2. 糖尿病における膵β細胞においては、グルコースによるインスリン分泌が高度に障害されているのが特徴的です。 私たちはその機序として膵β細胞内のグルコース代謝障害が重要であることを見出しました。 また近年では、膵β細胞におけるグルコース代謝障害は活性酸素種(ROS)によりきたされることを明らかにし、 非受容体型チロシンキナーゼであるSrcを介する内因性ROS産生機構がインスリン分泌障害に重要な役割を果たすことを示しました(図2)。

グルコースにおけるインスリン分泌機構と糖尿病状態でのベータ細胞における内因性ROS機構とインスリン分泌障害

■インスリン分泌メカニズムにおけるイオンチャネルの研究
糖尿病の発症には、インスリン分泌障害とインスリン抵抗性が関与しています。我々は、膵β細胞からのインスリン分泌メカニズムについて継続的に研究を続けてきました。 膵β細胞からのインスリン分泌の機序として、糖(グルコース)が膵β細胞で代謝されるとアデノシン三リン酸(ATP)が増加し、 このATP増加に反応してATP感受性カリウムチャネル(KATPチャネル)が閉鎖することで細胞膜の電位が上昇し、電位依存性カルシウムチャネル(VDCC)が開いてカルシウムイオンが細胞内に流入しインスリン分泌が惹起される、 というのが主な機序と考えられています。この経路のどれか1つに障害が起こると恒常的な血糖調節が損なわれ、糖尿病や低血糖症などの血糖調節異常が起こる可能性があります。 また、KATPチャネルには、糖尿病治療薬(スルホニル尿素薬およびグリニド薬)以外にも、抗菌薬(ニューキノロン系抗菌薬)および抗不整脈薬など様々な薬剤が結合します。 この結合により、糖尿病治療薬においては本来期待される作用であるインスリン分泌を促進する一方で、抗菌薬や抗不整脈薬においては副作用として低血糖を惹起する可能性があることを我々は報告してきました。 これらの経緯から、我々は、インスリン分泌経路で重要なイオンチャネルに焦点を絞り、電気生理学的手法を用いて、その遺伝子異常や活性を調節する因子の検討、 さらにはインスリン分泌促進薬を含めた様々な薬剤の作用および副作用の発現メカニズムについて研究しています。これらイオンチャネルを中心とした研究知見の集積により、 インスリン分泌に係わる様々な病態および薬剤反応性メカニズムの解明に貢献できるものと考え研究を進めています。

グルコースにおけるインスリン分泌機構と糖尿病状態でのベータ細胞における内因性ROS機構とインスリン分泌障害

■インスリン分泌顆粒形成に関する研究
インスリン分泌顆粒が正しく形成されその数が膵β細胞内に十分に存在することは、インスリン分泌にとって重要です。 そこで私たちは、IA-2およびSorting nexin 19(SNX19)1)に注目してインスリン分泌顆粒形成に関する研究を行っています。 IA-2は、インスリン分泌顆粒などの有芯小胞に存在する1型糖尿病の自己抗原の一つで、抗IA-2自己抗体は新規1型糖尿病患者の70-80%で陽性になります。 IA-2を膵β細胞株で過剰発現させると分泌顆粒数は増加しその結果インスリン分泌も増加しますが、低発現させると分泌顆粒数は減少しインスリン分泌も低下します(図1)2)。 また同様に、神経内分泌細胞株においてIA-2を過剰発現させると、ドーパミンなどの神経伝達物質の分泌やその分泌顆粒数も増加することがわかっています(投稿中)。 一方SNX19は、IA-2と相互作用してインスリン分泌およびβ細胞死に関与する分子です4)。膵β細胞株においてSNX19を低発現させると、IA-2の発現も低下し、インスリン分泌顆粒数が低下します(図2)。 これらの結果から現在私たちは、IA-2とSNX19の関係に注目してインスリン分泌顆粒の形成に関する研究を進めています。

グルコースにおけるインスリン分泌機構と糖尿病状態でのベータ細胞における内因性ROS機構とインスリン分泌障害

■文献
1. Hu YF, Zhang HL, Cai T, Harashima S, Notkins AL: The IA-2 interactome. Diabetologia 48: 2576-2581, 2005
2. Harashima S, Clark A, Christie M, Notkins AL: The dense core transmembrane vesicle protein IA-2 is a regulator of vesicle number and insulin secretion. Proc Natl Acad Sci U S A 102: 8704-8709, 2005
3. Nishimura T, Harashima S, Hu Y, Notkins AL: IA-2 modulates dopamine secretion in PC12 cells (on submission)
4. Harashima S, Harashima C, Nishimura T, Hu Y, Notkins AL. Overexpression of the autoantigen IA-2 puts beta cells into a pre-apoptotic state: autoantigen-induced, but non-autoimmune-mediated, tissue destruction. Clin Exp Immunol. 150:49-60, 2007