糖尿病と肥満‐糖尿病教室|糖尿病 食事療法 治療 京大病院 栄養内科





糖尿病教室

■その1:肥満と体脂肪
ここで、2型糖尿病と極めて関連が深い肥満について少し説明しましょう。 肥満度は、一般的に以下のような方法で身長と体重から計算されます。

標準体重の計算
Broca変法 標準体重[kg] = (身長[cm]−100) × 0.9
(但し、身長が150cm程度以下の場合は 身長−100 を使用)
BMI法 標準体重[kg] = 22 × 身長[m]の2乗
肥満度
標準体重比
−20%未満 痩せすぎ
−20% 〜 −10% 痩せ気味
−10% 〜 +10% 適正
+10% 〜 +20% 肥満気味
+20%超 太りすぎ

実は、本当の意味での肥満とは、体の中で脂肪の割合(体脂肪率)が 多すぎる状態を指すのですが、上の方法では正確には判定できません。 たとえば、スポーツ選手などで筋骨隆々となっために体重が増えている人は 肥満と判定されてしまい、 逆に見かけは太っていないが筋肉が少なく脂肪が多い不健康な体質の人は 正常とされてしまいます。
そこで、肥満の正確な判定には体脂肪率を測ることが必要になります。 最近は体のもつ電気抵抗(インピーダンス)から 体脂肪率を簡単に測定してくれる器械(体脂肪率計)も出回っており、 簡単に家庭でも測定できるようになりました。

■その2:内臓肥満とは
肥満と健康について考えるときには、体脂肪の量ばかりでなく体脂肪の分布状態も重要です。 体脂肪は皮下脂肪と内臓脂肪に分けられます。皮下脂肪は体の表面付近についている、見た目にわかりやすい部分の脂肪と考えて下さい。 内臓脂肪とは、おなかの中で腸の周辺(腸間膜)など、そとから見ただけではわかりにくい部分に沈着しています。 単純にいうと皮下脂肪は指でつまむことが出来ますが、内臓脂肪を指でつまむことは出来ません。
エネルギーを蓄えるという観点からいうと、 皮下脂肪は定期預金で内臓脂肪は普通預金と例えられます。 つまり、内臓脂肪は食べ過ぎでカロリーオーバーになるとすぐにたまりますが、 食事制限や運動で簡単に減ります。 皮下脂肪はその反対で、なかなか付きませんが、付いてしまうとなかなか減りません。
このうち、内臓脂肪が多くたまった状態の肥満を内臓肥満と呼び、 特にインスリン抵抗性や糖尿病などの病気と関係が深い事がわかっています。

皮下脂肪と内臓脂肪の例
皮下脂肪が多い肥満
内臓脂肪が多い肥満
上段:通常の腹部X線CT写真
下段:画像処理後(皮下脂肪→黄色、内臓脂肪→赤)

■その3:インスリン抵抗性と死の四重奏
肥満や糖尿病と関連して近年注目を集めている、インスリン抵抗性という概念があります。 インスリンの作用は主に骨格筋・脂肪・肝臓で糖の吸収を増すことですが、 インスリン抵抗性とはこれらの組織(標的組織)でインスリン作用の効率が弱まっている状態を指します。 インスリン抵抗性があると、体内にあるインスリンの量が同程度であれば血糖降下作用は弱くなり、 血糖を正常に維持しようとすればより多くのインスリンが必要になります。
特に欧米の白人における2型糖尿病の大部分には このインスリン抵抗性が強く関与しており、 次のような経過で糖尿病が発病します。 初期にはインスリン抵抗性を補うために ランゲルハンス島から大量のインスリンが分泌され、 血糖値が正常で高インスリン血症の状態が生じます。 やがてランゲルハンス島の機能が弱り始めて 大量のインスリン分泌を維持できなくなると、 インスリン抵抗性を補えなくなり血糖値が上昇してきます。
インスリン抵抗性が注目されている大きな理由のひとつは、それを背景に、 内臓肥満、糖代謝障害(高インスリン血症)、高血圧、高中性脂肪血症の4つが合併しているX症候群(syndrome X)のためです。 これは動脈硬化や心臓発作などの危険度が特に高いため、別名死の四重奏(deadly quartet)と呼ばれています。
我々日本人は欧米の白人に比べて肥満が少なく インスリン抵抗性が認められにくい事がよく知られています。 しかし、残念ながら日本人はその割には案外糖尿病になりやすいと言われています。 日本人はインスリン抵抗性が軽度である代わりに、ランゲルハンス島からのインスリン分泌が減少しやすい事も関係しているのでしょう。 このため日本人の2型糖尿病症例では、欧米人の糖尿病の初期に認められるような高インスリン血症の時期が認められず、 発症初期からインスリン分泌不全が前面に現れている事が多いのです。 しかし、最近我が国でも、インスリン抵抗性と関連が深い死の四重奏の症例が 案外多いという報告もあり、注意が必要です。



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