■その1:なによりもまず食事療法
病気の治療というと、まず飲み薬や注射による治療が連想されますが、糖尿病では食事療法こそが治療の基本中の基本であり、
薬より大切である事を忘れてはなりません。
「食事療法を行いなさい」と言うことは、すなわち「治療を受けなさい」と言うことなのです。
当然、定期的に通院し、食事療法による治療がうまく行っているかどうかを 血液検査で判定していく必要があります。
この事実をしっかり受け止めて理解しておかないと、初期治療がおろそかになってしまう恐れがあります。
食事療法というと、「食べてはいけないものは何ですか」とか「何を食べればいいのでしょうか」などという質問をよくうけます。
しかし、基本を守れば食べていけないものは原則としてありませんし、 逆に、食べ方次第ではどんな食品でも害になり得ます。
食事療法の話を詳しく書くと、それだけで分厚い一冊の本になってしまいますので、ここでは大まかな考え方にとどめます。
標準体重の計算
Broca変法 |
標準体重[kg] = (身長[cm]−100) × 0.9
(但し、身長が150cm程度以下の場合は 身長−100 を使用)
|
BMI法 |
標準体重[kg] = 22 × 身長[m]の2乗 |
求められた標準体重を基にして、個々の身体的特性などを考慮に入れて、適正体重を決定します。
このときに注意すべき点を以下に列挙しておきます。
・標準体重 ± 10% の範囲を目安とする
・20歳前後の頃の体重が適正体重である事が多い
・筋、骨格の発達したものは、適正体重は多めに設定する
・体脂肪率の大きい患者は、適正体重を低めに設定する
・現体重が標準体重以下の場合、 それが疾病に関連するるいそうでなければ現体重を適正体重として差し支えない
次に、標準体重に基づいて一日あたりの適正な摂取カロリーを決定します。
体重1kgあたりのエネルギー
生活活動強度 |
エネルギー
(kcal)
|
入院中 |
20〜25 |
軽度 |
25〜35 |
中等度 |
30〜35 |
やや重度 |
30〜45 |
ただし、やせ型・若年者はやや高めの値、肥満型・高年者はやや低めの値を使用する
■食品交換表の利用
適正摂取カロリーをもとめたら、それをバランスよく朝・昼・夕の三食に分配し、
さらに三大栄養素のバランスをとり、ビタミンやミネラルなどが不足しないよう配慮して献立を決めます。
この計算を容易にする目的で、糖尿病学会が作成している食品交換表が一般的に用いられますが、これは糖尿病の食事療法においてもっとも基本となるものですから、
是非うまく使いこなせるように勉強して下さい。
食品交換表では80キロカロリーを1単位として、 様々な食品の1単位あたりの量(グラム数)を明示し、
さらに、各食品を栄養上の特性によって下のように大きく6つのグループに分けています。
食品交換表における食品の分類
表1 |
穀類・芋類・
糖質の多い野菜・種実 |
糖質を主として
供給する食品群 |
表2 |
果実類 |
表3 |
肉・魚・卵・
大豆製品・チーズ |
蛋白質を主として
供給する食品群 |
表4 |
乳製品 |
表5 |
油脂類・多脂性食品 |
脂質を主として
供給する食品群 |
表6 |
野菜・海藻・きのこ類 |
ビタミン・ミネラルを主として
供給する食品群 |
付録 |
録
調味料 |
|
同じグループの中であれば、 同じ単位数の食品どうしを取り替えて献立をたてる事ができます。
これをうまく使いこなせば、栄養のバランスをとりながら決まったカロリーの献立を作る助けとなるでしょう。
下に、いろいろな一日摂取カロリーにおける、各表の配分例を示します。
配分の仕方は、それぞれの病状によって変わりますから、詳しくは主治医とよく相談して下さい。
一日あたりの摂取エネルギーと単位配分の例
摂取エネルギー
(kcal→単位) |
表1
(単位)
|
表2
(単位) |
表3
(単位) |
表4
(単位) |
表5
(単位) |
表6
(単位) |
表7
(単位) |
1200kcal→15単位 |
6.0 |
1.0 |
4.0 |
1.4 |
1.0 |
1.0 |
0.6 |
1440kcal→18単位 |
8.0 |
1.0 |
4.5 |
1.4 |
1.5 |
1.0 |
0.6 |
1600kcal→20単位 |
9.0 |
1.0 |
5.0 |
1.4 |
2.0 |
1.0 |
0.6 |
1840kcal→23単位 |
12.0 |
1.0 |
5.0 |
1.4 |
2.0 |
1.0 |
0.6 |
2000kcal→25単位 |
13.0 |
1.0 |
6.0 |
1.4 |
2.0 |
1.0 |
0.6 |
コンピュータ化が急速に進む現代に食品交換表のやり方が適しているのか、という議論もあります。
近い将来には違った方法が主流になっている可能性もありますが、現在の所、実用的には他の選択肢は考えにくいでしょう。
■カロリー制限だけではないのです
食事療法を行う上で、カロリー制限以外に注意する点を列挙してみます。
1.油脂類は過剰にならぬよう注意し、多価不飽和脂肪酸を多く含むものを使用する。
2.砂糖などの単純糖質や砂糖を多く含む菓子類・清涼飲料水は極力控える。
3.食物繊維を十分に摂取する。
4.食事は規則正しく3回に分けて摂取し、外食は極力避ける。
5.適量のアルコールは、食事療法が守れ、血糖コントロールを乱さない事を条件に認めても良い。
6.高血圧がある例では、腎症予防のために早期から塩分制限を行う。
7.腎症が始まったらその進展を押さえるために、塩分とタンパク質を制限する。
糖尿病の食事療法をする上で、大切なことは決められた適正摂取カロリーを守りながら、いろんな食品をバランス良く摂取することです。
しかし、食品交換表上で同じ分類の食品を同じカロリーだけ摂取しても、血糖値に対する影響が違ってくる場合があります。
さらに、全く同じ食品でもその摂取方法によって影響が変わってきます。
例えば、果物を固形のまま囓るより、ジュースにして飲む方が消化吸収が速く、体内に急速に吸収されます。
その結果インスリン分泌が追いつかず極端な高血糖になる可能性があります。
また、この場合吸収し終えると糖の供給が速やかに途絶えるため、急上昇した血糖値が短時間のうちに急降下する恐れもあり、
高血糖と低血糖の両方の危険を伴うことになります。
血糖コントロールが安定せずに悩んでいる患者さんは、この様な思わぬ落とし穴に引っかかっていないか、
一度主治医に相談してみた方がいいかも知れません。
■その2:運動療法、無理は禁物
食事療法と並んで、糖尿病の患者さんに重要なのが運動療法です。
糖尿病患者にかぎらず、筋肉を減らさず(むしろ増やしながら)脂肪を減らし、
健康的に体重を減らすためには適度な運動は欠かせません。
糖尿病の治療においては、その他にも次のようなメリットが考えられます。
1.カロリーを消費することによって、直接的に血糖を下げる。
2.筋肉の働きが活発になることで、インスリン感受性が増し、効きが良くなる。
3.心肺機能が丈夫になる。
4.血圧が安定し、HDL−コレステロールが増えることなどから血管を丈夫にし 合併症の予防につながる。
5.ストレスを発散し生活のリズムが規則正しくなる。
ただし、運動によって直接消費できるカロリーは、案外少ないと思って下さい。
運動して食欲が出たからといって食事の量が増えると、たいていの場合は、運動効果よりも食事量の増加の方が勝ってしまいますので、注意が必要です。
糖尿病治療のための運動療法に特別なことをする必要はありません。
自分にあった、無理なく毎日続けられることを考えてみて下さい。一般的には散歩などが多いですが、元気な患者さんは好きなスポーツに熱中してみるのもいいでしょう。
膝が悪くて運動が難しい場合は、プールでの歩行や水泳が勧められます。
いずれにしても、あわてて無理をせず、徐々に体を慣らしていくことが大切です。
積極的な運動をする場合でも、自分の限界の6割くらいまでの運動強度が、糖尿病の運動療法としては適していると言われています。
運動強度は簡易的には脈拍で見当がつけられます。 ヒトの最大脈拍数はだいたい(220?年齢)/分程度ですから、その6割くらいまでを目安にすればいいでしょう。
もちろん、もっと軽い運動でも、長い時間続ければ十分な運動効果が期待できます。歩行の場合、よく言われる一日一万歩が運動療法の目安でしょう。
また、血糖コントロールが極端に悪い場合や合併症が進行している場合など、状態によっては運動をしない方が良い場合もあります。
新しく運動療法を始めようとする方は、まず主治医に相談して下さい。 元気そうな方でも場合によっては、運動を始める前に心臓発作の危険がないかなどの検査をする必要があります。
また、運動を行うと血糖が下がりやすくなりますから、低血糖に対する備えは忘れないで下さい。
低血糖防止のためにも、食後の高血糖を改善する意味でも、食後30分くらいたって血糖が上昇し始める頃が運動療法に適した時間と言えます。
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