インクレチンに関する研究
グルコースを経口投与すると、同程度の血糖上昇であっても経静脈的に投与した場合と比較して、はるかに多くのインスリンが分泌されます。これは経口摂取に伴い消化管由来のホルモンが血中に分泌され、膵β細胞に作用してインスリン分泌を促進することによるもので、このようなインスリン分泌促進作用を担う消化管由来のホルモンを「インクレチン」と呼んでいます。主なインクレチンとしてGIP (glucose-dependent insulinotropic polypeptide)とGLP-1(glucagon-like polypeptide 1)があり、糖や脂質といった栄養素の摂取によって腸管内分泌細胞から分泌されます。
当教室におけるインクレチン研究の歴史は古く、GIPのcDNAや遺伝子の同定、GIP受容体の同定、さらにはGIP受容体ノックアウトマウスの作成・解析によって実際にGIPがインクレチン作用を担う消化管ホルモンであることを直接証明するなど、世界に先駆けた成果を発表してきました。こうした成果に立脚して、インクレチンのもつ膵β細胞におけるインスリン分泌促進作用以外に、GIPが高脂肪食摂取時の肥満形成・インスリン抵抗性を助長することを明らかにするなど、特に脂肪や骨などの膵外への作用に関しても注目を浴びる成果を発表し続けています。また、腸管内分泌細胞を可視化したレポーターマウスを用いた解析や腸管の組織透明化による3D解析など、新たな手法も取り入れ確立しています。
インクレチン関連薬は2009年に本邦で発売されて以降、糖尿病治療に広く使用されています。GLP-1受容体作動薬は血糖降下作用だけでなく、食欲抑制・体重減少作用を有することが知られており、近年その使用が増加しています。2023年にはGIP/GLP-1受容体作動薬が発売されるなどインクレチン関連薬の進歩は著しく、ますますインクレチン研究への期待が高まっています。