遺伝的体質と糖尿病‐糖尿病教室|糖尿病 食事療法 治療 京大病院 栄養内科





糖尿病教室

■その1:糖尿病って本当に遺伝するのでしょうか
答えは、「半分イエス、半分ノー」です。
親や肉親が糖尿病だと、糖尿病の家族歴がない人に比べて 糖尿病になりやすいことは事実ですが、遺伝するのは糖尿病そのものではなく、 「糖尿病になりやすい体質」です。この体質を持った人に、食べ過ぎ、運動不足、肥満、加齢、ストレス、など様々な環境因子が加わってはじめて糖尿病が発症すると考えられています。
この糖尿病になりやすい遺伝的体質のことを糖尿病の「遺伝的素因」と呼びます。 2型糖尿病の原因となる遺伝子異常が何種類かは見つかっていますが、 はっきりと異常が特定できる例はまれで、 殆どは軽い異常が多数積み重なることによってその体質を形成していると考えられています。 これのような形式の遺伝を複合遺伝といいますが、このために糖尿病の遺伝的素因はきわめて複雑で、 糖尿病になりやすい体質も強弱さまざま存在します。
2型糖尿病を含め、成人病には遺伝的素因の他に、食習慣、運動不足、肥満、ストレス、酒・たばこなどの嗜好といった環境的要因が大きく影響します。 このため、普段から日常生活の自己管理をきっちり行って、このような生活習慣が深く関わる病気を未然に防ぎましょう、 という意味を込めて、成人病という呼び名は平成10年から生活習慣病と改められました。 もちろん、2型糖尿病の発症に遺伝的素因による体質の影響は大きいのですが、多くの場合は気をつければ糖尿病を予防できた可能性があるのではないかと思われます。
中には、糖尿病の遺伝的素因を全く持っておらず、どんなに不摂生をしても糖尿病にならない体質の人もあるのかもしれません。 しかし、日本人は欧米の白人と比べると肥満が軽度なのに糖尿病になる例が多く、 ほとんどの日本人は糖尿病の遺伝素因を多少は持ち合わせていると考えておいた方が良いような気がします。 従って、普段から生活習慣に気を配って糖尿病を予防するという考え方は、誰にでもあてはまるのではないでしょうか。 それになによりも、運動不足や肥満による害は糖尿病だけに限らないのですから。

■その2:日本人は糖尿病になりやすい
糖尿病のうち1型糖尿病の頻度は、日本人では欧米の白人に比べて明らかに低く、 十〜数十分の一と言われています。 1型糖尿病になりやすいかどうかは免疫機能の反応性が影響しており、 これは民族間で大きく異なるためと考えられています。 1型糖尿病は基本的にはインスリン依存型になる病型で、 コントロールが難しくなりやすいため、 この点で日本人は運がいいと言えるのかもしれません。
しかし、2型糖尿病に関してはちょっと様子が違います。 我が国では最近40年間で30〜50倍と2型糖尿病が著しく増加しているのに対し、 欧米では5〜10倍と増加はしているものの我が国よりもはるかに緩やかです。 その結果、患者の実数も人口比にすると我が国では欧米の1.5〜2倍になっていると考えられています。 欧米人に比べ、日本人の摂取カロリーは少な目で肥満者も目立たないのに、 2型糖尿病が多いのは、日本人が民族的に2型糖尿病になりやすい体質(遺伝的素因)を 持っているためと考えられます。
日本人は長年飢餓の危険に耐えて生活してきた (この点では、世界の多くの地域もそうかもしれませんが)上に、食べるときでも穀物が中心の低脂肪低カロリー食が中心でした。 その結果、日本人の遺伝子には過剰摂取されたカロリーを処理する機構は要求されず、逆に、少ないカロリーで生き残る事が出来る、 優れた省エネ体質を作り上げてきたと考えられます。 そこに、飽食の時代を迎えて摂取カロリーや栄養素バランスの変化が加わってくると、 糖尿病が激増したことは当然の結果であったのかもしれません。
遺伝的素因が日本人と変わらないはずの日系2世米国人で、 日本人よりも2〜3倍、米国の白人と比べると数倍以上の差で糖尿病が多いという事実からも、 日本人が環境因子、特に食生活の変化に影響されやすいこと、 同じ食事をとると米国白人よりも日本人の方が圧倒的に糖尿病になりやすいことなどがわかります。



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