糖尿病に必要な検査‐糖尿病教室|糖尿病 食事療法 治療 京大病院 栄養内科





糖尿病教室

■糖尿病に必要な検査
糖尿病は早期発見や治療のためには様々な検査が必要です。
糖尿病やその合併症は自覚症状がないうちに進んでしまう病気ですから、 「自分の体のことは自分が一番よく知っている」とか「自分の健康には自身がある」といった強がりや過信は何の役にも立ちません。
ここでは糖尿病を発見・診断するための検査、 血糖コントロールの状態を評価するための検査、合併症の早期発見・経過観察のための検査に分けて、代表的なものを解説します。

■その1:診断を下すための検査
血液中のブドウ糖濃度を調べる血糖値の検査では、正常値は70〜110mg/dlで、正常上限を越えていると糖尿病の疑いがあります。 また、尿糖の検査が陽性の場合にも、やはり糖尿病の疑いありということになります。血糖値が極端に高い場合には、それだけで糖尿病と診断が可能な場合がありますが、 尿糖だけでは絶対に診断は出来ません。また、これらの検査が正常であっても、糖尿病を完全に否定することは出来ません。糖尿病が軽い間は検査のタイミングによっては、検査値が正常になる場合もあるからです。
糖尿病の診断を正確に確定するためには、 ブドウ糖を75g含んだ溶液【注1】 を飲んで血糖の変動を調べるブドウ糖負荷試験が行われます。
これは体がブドウ糖を処理する能力を判定する検査で、糖尿病の有無、あるいは境界型(ないし耐糖能障害)と本当の糖尿病の判別を行うことが出来ます。 日本糖尿病学会、WHO、米国糖尿病学会などいくつか判定基準があり、細かい相違がありますが、ブドウ糖液を飲んだ2時間後に血糖値が200mg/dl以上あれば、間違いなく糖尿病と診断されます。
最初の段階で空腹時血糖140mg/dl以上ないし食後血糖値200mg/dl以上を示していた場合、糖負荷試験をするまでもなく、糖尿病と診断が下される場合もあります。 ただし、糖尿病と診断が可能な場合でも、身体状況を正確に評価するなどの目的で糖負荷試験が行われることはあります。 しかし、極端な高血糖状態が明らかな場合や糖尿病性ケトーシスなどが認められる場合などは、糖負荷試験を行うとさらに状況を悪化させますので禁忌(行ってはならないこと)です。 また、糖尿病に特徴的な合併症が証明された場合には、糖負荷試験や血糖値の成績に関わらず糖尿病と診断を下すことになっています。

注1:
そのままでは甘すぎて飲みにくいため、 炭酸でごまかしてサイダーのような味になっています。

■その2:コントロール状態を評価するための検査
糖尿病の診断後に、合併症を進行させないためには、 まず日々の血糖値のコントロール状態を正しく評価する必要があります。 通常、血糖がかなり上がって合併症が進行しやすい状態になっていても 自覚症状はありませんから、評価のためには血液検査が不可欠です。
血糖値は高すぎてはいけませんが、低すぎて低血糖をおこしても困ります。だいたい空腹時血糖で120mg/dl前後、食後2時間後の血糖で200mg/dl以下を 目標にする事が多いでしょう。 ただし、実際には患者さんの状況を総合的に判断して、 それぞれにあった治療目標を定めるので一概にこの数字とは限りません。 また、簡単な治療で低血糖の危険なく正常に近い値を達成できる人は、極力正常値を目標とします。
さて、この血糖値ですが、実は刻々と変動しているため、 たまに受診した際に血糖値を測定しても、正確な評価は困難です。 そこで、この変動をならして、より長い目で見た血糖の平均値を知るために、 グリコヘモグロビン(HbA1c)が検査されます。
血液中の赤血球の中にあって、酸素を運搬する役目を担うヘモグロビンというタンパク質(血色素)がありますが、 ヘモグロビンとグルコースがふれあうと徐々に結びついてグリコヘモグロビンに変化していきます。高血糖状態があると その程度や持続期間に応じてグリコヘモグロビンの割合が増え、その変動は概ね最近1〜2ヶ月間の血糖コントロールの善し悪しを反映しています。
血糖値同様個々の患者さん毎に目標値は変わってきますが一般的には6.5%以下なら優等生、 7%以下ならまずまず合格点、7.5%くらいまでは要注意、それを越えると問題あり、 というところでしょう 。なかには9%以上もある患者さんも結構おられますが、そうなると合併症の出現は時間の問題と考えるべきです。
糖尿病患者における血管合併症(糖尿病性腎症や動脈硬化など)を防止するためには、 血圧測定や総コレステロール、HDL−コレステロール、トリグリセライドなどの 高脂血症の検査も定期的に行って、正常範囲を保つようにする必要があります。
HbA1cの様に長期的にみた平均値を知る検査がない時代は、 受診する2〜3日前から極端な食事療法を行って、一時的に血糖値を下げて検査にのぞむ不心得な患者さんが多くあったそうです。 現在はそんなことをしても、HbA1cを測ればすぐにインチキがばれますので、 まじめにやりましょう。

■その3:合併症を早期発見するための検査
合併症も糖尿病そのものと同様に、早期発見早期治療が大切です。 糖尿病性腎症の早期発見のためには尿蛋白検査が重要ですが、尿の中のアルブミン(血液中に存在する重要な蛋白の一種)を 精密に測定することでより早期に発見が出来ます。 腎症がさらに進んでしまうと、血液検査で 尿素窒素やクレアチニンというデータが上昇し始めますが、 そこまで行ってしまっては大変なのです。
糖尿病性網膜症の早期発見のためには、眼底検査を定期的に受ける必要があります。 神経障害のための検査としては振動覚を定量的に測定する振動覚計や、 心臓の脈拍の変化から自律神経機能を評価する方法などがありますが、検査結果が治療に結びつきにくいなどの難点があり、一般病院ではあまり行われていません。 糖尿病性足壊疽などは、足に傷や感染がないかを毎日自分の目で確かめることで、早期発見できます。
動脈硬化からくる虚血性心疾患の早期発見のためには、定期的に心電図をとります。 ただし、たとえ心電図が正常でも胸の痛みや運動時の息切れなど、不安な症状があればさらに詳しい検査をした方が良い場合もありますので、 主治医によく相談する事が大切です。 同じく動脈硬化からくる脳血管障害は、CTやMRIなどの画像診断による検査が中心となります。 その他にも頸動脈をエコーで検査して動脈硬化の程度を正確に評価する方法なども普及してきています。 大血管障害のための検査は、まずこれらの体に負担をかけない(非侵讐的)検査を適宜行い、その結果によってさらに詳しい検査を考慮する事になります。



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